愛の忠臣蔵

 「♪師走だなぁ〜ぼかぁキミといるときが一番師走なんだぁ〜〜」加山雄三の往年のヒット曲に乗り、年末になると不景気とはいえ、どこの街もそれなりにそれっぽい雰囲気になる。

 映画やTVでもしきりに年末用のネタが取り上げられているが、アメリカには、クリスマスを題材とした映画が沢山ある。が、この21世紀においても未だクリスマス映画の決定版と言えば、フランク・キャプラの『It's a Wonderful Life/素晴らしき哉人生(邦題)』をおいて他にないのである。

 『ホームアローン』(これもクリスマス映画)という映画で、クリスマスにフランスへ旅行に行ったアメリカ人一家が、ホテルで『It's a Wonderful Life』のフランス語吹き替え版を、神妙な顔付きで観ているシーンがあったが、これもそういったアメリカ人の風習を知らないとよく意味が判らない。

 今までの話に付いて来れない方は、アホな日本のTVドラマにばかりウツツを抜かしてないで、たまにはこういった映画も観ていただきたい。少なくともハリーポッターなんぞよりはずっと夢があるし、”自殺を思い止ませるための映画1本!”となると、もうこの映画をおいて他にないのである。

 さて、日本の場合もこの『It's a Wonderful Life』 と同様、好む好まざるとに係わらず、年末になると必ずT登場するドラマがある。そう、言わずと知れた『忠臣蔵』である。もはやこの物語は、日本人の習慣と言っても過言ではない。これほど映画やTVで繰り返し制作され、放映され続けているネタは、日本の長い歴史をみても他に見当たらない。

 では、そこまで日本人に感銘を与える『忠臣蔵』とは、いったいどのような話なのか? 全然知らない若者達のために、ここで簡単にあらましを説明しておこう。

 時は江戸・元禄時代。浅野というローカル出身の若い殿様が、出張先のお城の中で、他愛のないイザコザが原因で、彼の上司にあたる吉良という陰険なオヤジと喧嘩をした。しかし、城内は喧嘩厳禁、ましてや刀を抜くなどもっての他。にも関わらず、浅野はキレまくり (カルシウムの不足か!?)、お城の中で刀を振り回したもんだから、厳重な罰をくらった。その罰とは切腹、英語で言うとハラキリである。

 喧嘩両成敗というのが当時の常識であったが、綱吉というチョット感覚のズレタ将軍がこの事件に口をさしたため、この事件は浅野だけが有罪で、吉良は無罪放免ということになった。 この処罰を不服とした浅野の家来(総勢47人)が、その事件後、一致団結して吉良を殺して復讐を遂げ、その家来達も殿様と同じように全員切腹させられた…。という実話である。

 この事件の分析については、当時からかなり厄介なものだったらしいが、それにしても、この話を日本人が異常に好む理由はいったい何処にあるのか? 単に忠義心とか、復讐リーダーだった大石の策略が面白い等々のポイントも、別に現代の感覚に通用するとも思えない。第一、最終的には全員死んでしまうのだから、話の後味だって悪い。

 この日本の伝統的なストーリーテラーを、何人かアメリカ人の友人に説明して聞かせたところ、返ってきた答えはすべからく、「Unbelievable!」という性質のものであった。 つまり、「何やそれ?」、「信じられへん!」の世界である。すべからくアメリカ人の目をテンにさせるこの『忠臣蔵ストーリー』に、日本人独特のメンタリティーを解く鍵があるのではないかと考えてみるのも無駄ではあるまい。

 当時は仇討ちという制度が、法律的に合法化されていた時代である。これを聞いて「え”〜っ!?なんちゅう恐ろしい時代や!」と言ったアメリカ人がいたが、アメリカがイラクやアフガンに対してやっていることも、言ってみれば合法的仇討ちみたいなものである。

 同じサスペンス映画でもアメリカ製だと、バンバン人が殺されてもどこか“カラッ!!”としているのに比べ、日本製は必ずどこか“ジト〜ッ”と暗〜い雰囲気がかもし出されている。お互い意識してそうつくっているわけではないのであるから、これは持って生まれた国民性としか言いようがない。やはり日本人は本質的に“暗〜い”のが好きなのだ。(だから日本の教会も暗いんか??)

 更に困ったことには、日本は自殺とか心中を美化する傾向がある。特に心中は、近松門左衛門から始まって、日本文学のある重要な部分を占めるまでに至っている。この『忠臣蔵』も、言ってみれば一種の集団心中のようなものである。

 この心中という精神構造が、日本人独特の美意識の中に組み込まれていることに比べ、方や欧米文学には心中を扱ったものが、アタシの知る限り一つもない。『ロミオとジュリエット』や、『トリスタンとイゾルデ』のような悲哀恋愛ものも、心中とは明らかに内容が違う。

 『七人の侍』や『用心棒』など、いくつかのクロサワ映画が欧米版にリメイクされているのは有名な話だが、、スピルバーグでもタランティーノでも、誰か欧米人の監督がこの『忠臣蔵』をリメイクしたら、いったいどんな映画になるだろう? 彼等がこの史実を、いったいどのように解釈するのか、是非一度見たいものである。

 そこで何となく思い付いたのは、『忠臣蔵』と『タイタニック』との因果関係(?)である。『忠臣蔵』の場合、討ち入り成功を目指し、死に向かって一直線!という彼等の行動が、平和ボケした日本の大衆に、一服のカタルシスを与える効用があるのではあるまいか? この『タイタニック』という作品も、実話を題材にした非常に万人受けしている映画である。(アメリカ映画の歴代興行成績第一位)

 アメリカ人が映画に求めるカタルシスとは、『愛と正義』でなければ、いきなり『Sexか暴力』かという、恐ろしくも哀しい現実がある。『タイタニック』の場合、同じ”死”へのカタルシスであっても、取りあえず”愛”というお題目が付いている。ところが、『忠臣蔵』にはどこを探しても、そこにあるのは互いの都合とメンツだけで、愛も正義も全く見当たらない。というワケで、『忠臣蔵ハリウッド版』が、今後制作される見通しは…・・全然ついていないのである。
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