寅さんをめぐる7つの謎

 さて、忠臣蔵の次は寅さんなのである。日本のお正月映画と言えば、シリーズが終了して既に10余年が経過した今も、未だこの映画に取って代わるものはない。寅さんは日本の大衆文化であり、これほど日本人に浸透したキャラも珍しい。今回は、ギネスブックに燦然と輝く、世界最長の映画シリ−ズに潜む7つの謎に大胆に迫る!


疑問@ 何故・・寅さんはこんなに続いたのか?

 寅さんをいったいどのような形で完結させるのか? これは日本の国家的課題であった。1969年から1995年の26年間に、実に48本制作されたこの映画は、結局主役の死去をもってその幕を閉じた。しかしてその映画の基本ラインは、純情で単純なテキヤ稼業の男が、女性に恋しては振られる過程を、彼とその家族を交えながら描くという、ただこれの繰り返しであった。


疑問A 何故・・寅さんは作品の出来と興行成績が関係ないのか?

 松竹がこの映画を何故48作もつくったのか? その理由は、早い話が儲かったからである。ゴッドファザー然り、ジェームスボンド然り、作品の出来は当然興行成績と比例する。しかし寅さんの場合、客の入りに関係するのはマドンナの配役くらいなもので、作品自体のクオリティとは、ほぼ関係がない。


疑問B 何故・・寅さんは周囲の人々から好かれるのか?

 無教養で、無責任で、貧乏で、容貌にも恵まれていない寅さんの魅力はいったい何処にあるのか? 「ちょっと変わり者だけど、愛すべき性格なのよぉ!」ってのは他人だから言えることであって、実際に寅さんが自分の親戚だとしたら、相当ヤッカイである。(寅さんとペテロ、アタシはどうしてもこの二人のイメージがダブる。)


疑問C 何故・・寅さんは一流の人間と付き合えるのか?

 48作中、人間国宝級の人物が登場する話がいくつかある。普通の人は口が聞けないような偉〜い人物を、寅さんだけが「おい、ジイさん!」とか呼んで周囲を慌てさせる。そんな偉〜い人たちが、世間では厄介者の寅さんに一目置き、心の交流が芽生えるのである。(何と最終話では、総理大臣をチャン付けして一緒に歩いていた・・)


疑問D 何故・・寅さんは自らも振られ続けるのか?

 寅さんはいつもフラれ続けていたわけではない。女性の方が寅さんに惚れたパターンも中にはあるのだ。ところが、いつも追いかける側の寅さんは、いざ女性の方からモーションをかえられると、とたんに臆病になり、そそくさと逃げてしまうのである。


疑問E 何故・・寅さんはエッチじゃないのか?

 寅さんとサザエさんには性的な描写が全く登場しない。あれだけ女性が大好きなのに、彼の恋は終始プラトニックに留まり、相手とキスすることさえ考えられない。彼は不能者ではないかとの説を主張したアホな映画評論家がいたくらいである。


疑問F 何故・・寅さんは外人に受けるのか?

 寅さんの英語吹き替え版を一度観た事がある。さくらの「お兄ちゃん!」が「Hey、Tora!」と訳されていたが、もうそれだけで何か違う。そんな日本人独特な感性満載の寅さんに、何故か多くの外国人ファンが存在する。大の寅さんファンだったウィーン市長のたっての願いで、むりやり製作されたEC編があるくらいで、(何で寅さんがパスポート持っとるの?)昭和天皇もスピルバーグも寅さんファン。ちなみに、金日成-正日親子もよく観ていたらしい。


 寅さんをワンパターンの低予算映画と軽く捉えている人が案外多い。まぁ好き嫌いは個人の自由なので、一向に構わないが、バカにするのはその人が映画を知らない証拠である。では、この7つの疑問を大胆に解き明かしましょう!! と、言いたいところだが、答えが判ってるなら、最初から疑問にはならない。しかしながら、寅さんが侮れない映画であることだけは、この場を借りて少し言及しておかねばならない。

 先ずは、山田洋次監督の繊細な演出である。具体的に説明するには少し紙面(画面)が足りないが、例えば、人と話していて互いの微妙な心の動揺を、本人より先に相手が感じ取ることがある。このようなやりとりは日常よくあることだが、これをカメラの前で演出するとなると大変。しかし、山田監督は、寅さんでそれをやっているのだ。

 社会に出ている人ならお分りだろうが、人間関係において月とスッポンの関係はほとんど成り立たない。人は自分のレベルに応じた相手としか付き合うことが出来ないのである。とすれば、人間国宝と寅さんとの関係はどう理解したら良いのか? それは、互いに中途半端な人間ではないということである。寅さんもテキヤ業界では一流なのである。

 寅さんは日本の救い主だと評する友人がいる。中野雄一郎師などは、寅さんを説教ネタに組み込んでおられるくらいである。確かにマドンナは一時的にせよ、寅さん流の無償の愛によって救われている。相手を救い、自分は静かに去ってゆく・・・これこそ寅さん美学!? “悲しいことを真面目な顔で語るのは易しいが、悲しいことを笑いながら語るのは難しい”。寅さん映画のテーマは、実にここにあるのだ。

 ともあれ、この映画は寅さん(渥美清氏)が命を掛けていた(第40作から、彼は癌の宣告を受けていた)生涯のプロジェクトであり、最終話もそういった意図で撮られていたわけではなかったにも関わらず、寅さんが地震で崩壊された街を一人歩き、その先に希望を見付けるという、日本の未来を象徴するような意味深なラストで終わっている。この先の話を、天国で直接寅さんと出来る(彼は病床洗礼を受けている)ことが、アタシの楽しみの一つなのである。
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