続・宗教革命

 「たとい、この世界が明日崩れ去ろうともわたしはわたしのリンゴの木を植え続ける」もうずうっと昔、多分テレビか何かでこの言葉を聞いて、子供ながらにも「いい言葉だなぁ」と思っていたことを憶えている。この言葉の主が実はルターだと知ったのは、つい最近のことだった。

 言うまでもなくルターは、福音をローマ・カトリックの千年の呪縛から解放した偉大な功労者である。ルターに対しては、「相当偉いんだろうけど、多分、ドイツ人特有の融通が効かない堅物だったんだろうなぁ・・」というのが、アタシを含めた誠に身勝手な一般的理解であろうと思われる。

 どうもこの写真が良くないのである。ルターと言えばこの写真しかないのだ。これはどう見ても、暗く陰険なオヤジにしか見えない。ヘタすれば前科三犯である。ところが、色々と調べてみると、ルターは実際には、案外愛すべきキャラのオジサンなのであった。

 宗教改革と言うと、世間では、ルターが95ヶ条の論題を、ローマ・カトリック教会の門前に「うりゃぁ!!」とか言いながら“ドバ〜ン!!”と貼ったところから始まった・・・。ということになっているが、どうも実際は、そうでもなかったらしい。

 彼は論題を実際に書いたには書いたが、それを公にするつもりなどはサラサラなく、ただ、彼の上司である大司教に送っただけなのであった。ところが、その後の成り行き上、それが世間に祭り上げられてしまったというのが本当のところらしい。(少なくとも例の教会の門に画鋲の跡はない)

 「ワテには強い信仰などあらしまへん。疑り深いし、神サンにホンマ信頼することができしまへんのや。主よ、どうぞ助けておくれやす」この祈りにあるように、彼は決して好戦的な人物ではなく、私たちと同じように、普通〜に信仰を求め、普通〜に悩み、普通〜に家庭生活を守った一修道士なのであった。

 とは言え、当時権力の権化のようなローマ・カトリックを一人敵に回し、日々、生命を脅やかされていたことは確かである。アタシの友人に、教団にケチを付けて、クビになった牧師がいるが、ルターの場合は命がかかっていたのだから、それどころの騒ぎではない。

 そのような日々のストレスの重圧感から彼を支えていたのは、他ならぬ妻のカタリーナであった。彼女は、暗い顔をして悩んでいる夫に、「アンタ、何でそんなぐちゃぐちゃ言われなあかんの?信仰ってそんな難しいことなん?みんなアホちゃうの?」とは言わなかった。

 彼女は、手編みの刺繍をそっと彼の机の上に置き、「これは、私からのプレゼント。あなたの紋章の真ん中にあるのは、イエス様が苦しまれた十字架で、この白いバラは信仰による喜びと自由の象徴。天国は未だ誰も見ることは出来ないけど、それを心に思って喜ぶの。そうすると、元気が出てくるのよ」。

 さすがは元祖牧師夫人。多少の意訳はあるものの、やはり言うことが違う。ウチのカミサンに聞かせてあげたいものである。ちなみに、ルターにはもう一つ(本当はもっとあるんだろうけど)、極めつけの名言がある。

 曰く、「結婚生活は人間教育の学校であり、修道院よりも優る」これはもう、2千年間の教会時代における名言ベスト5に入るだろう。難しい神学校を出るよりも、難しいカミサンがいる家を出ない方が、より努力と忍耐を要するからである。

 アタシがルターを尊敬する最大の理由は、彼が宗教改革の指針としたガラテヤ書を、「我カタリーナ・フォン・ボーラ!!」と呼んでいたことである。つまり、「そんだけワテは、ガラテヤとカミサンに惚れとるんやぁ〜!!」ということを彼は公に訴えているのであるが、これはなかなか出来ることではない。

 いくらアタシがハバクク書が好きだと言っても、周囲の冷ややかな視線を横目に、教会でカミサンの名前を叫び続けるだけの器量を、残念ながらアタシは持ち合わせていない。この福音の真理は決して曲げないが、福音表現においては、実に自由であったルターに、アタシはかなり畏敬の念を持っている。

 さて、やっとここで本題に入るのだが、もしこの21世紀において、未だ免罪符がまかり通り、それに当然のように大金を払っている無知な国民が存在しているとしたら、誰だって他人ごとながら、その国に宗教改革が起こることを願うだろう。

 その恐るべき無知な国とは、他の何処でもない、日本である。日本では、ただの板切れが「位牌」という名前で、ウン十万ウン百万円という、とんでもない価格で売られている。この板に書かれるありがた〜い文字(?)が多ければ多いほど、天国に行ける(かも知れない)可能性が高くなるという。

 普通に考えたら、そんなことがあるワケないぐらい、小学生でも分りそうなものだが、どういうワケだか、日本人は分らないのか、分りたくないのか、その辺りがアタシにもよく分らないのだが、とにかく、この位牌という免罪符は依然として日本に存続し続けているのである。

 そんな無知な日本の人々に、とりあえず一つだけ苦肉の情報をお伝えしておきたい。それは、もしどうしても位牌を買いたのなら、ぜひ、インターネットで購入されることをおススメする。死ぬ前に予約しておけば、何とディスカウント付きなのである!! 

 聖書に、「破れ口に立ち、執り成す者が一人もいないのを見て主は驚かれた」とあるが、こんなアホなことが、何時までもゆるされていていいワケがないのであって、このまま、誰も破れ口に立たないのであれば、アタシが立たなければならない。イザヤだって、自分に器量があると思って「アタシがここにおります(6:8)」と言ったワケではないだろうから。

 過去の例から言って、リバイバルは迫害とワンセットである。世間から迫害されるワケでもなく、かと言ってありがたがられるワケでもない、この生温〜い環境から逸脱し、ルターのように崖っぷちに立たたされたら、アタシも「我、ミスズ・タナーカ!!」と叫べるようになれるかも知れない。 (Good News Station 牧師・田中啓介)
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