嗚呼、映画祭

 カンヌ映画祭で14歳の日本人少年が主演男優賞を獲得した。このような世界的映画祭で、子役が主演男優賞を獲得したというのは、これが最初ではなかろうか。日本という国は、全体の風潮としては実に国際性に乏しいが、ワールドワイドな才能や芸術を輩出することに関しては、ピカイチである。

 カンヌ、ベネチア、ベルリ、日本でもよく話題になってるこれ等の映画祭。ほとんどの人はゴッチャになっていて、どれがどれだかよく分かっていないと思われるので、ちょっとこの場を借りて少し説明しておこう。フランスのカンヌ、イタリアのベネチア、そしてドイツのベルリン。この三つが所謂、世界三大映画祭と言われるものである。

 「あれっ、オスカーが入ってないじゃん?」と思った人は、ここで改められたい。あれはハリウッド映画が映画の全てであり、字幕付の映画なんぞ一生見たことないような、どちらかと言うと了見が狭い人々の映画祭である。・・と言うか、ハリウッド最大のスターと言えば、何と言ってもマリリン・モンローなのであるが、その彼女は一度もオスカーにノミネートすらされていない。このあえて格式付けたがるセコさが自らの薄っぺらさを強調している。

 ま、それはそれとして・・今回話題になっているカンヌは、過去に黒澤の『影武者』、今村昌平の『楢山節考』と『うなぎ』が最高賞(パームドール)を獲得した映画祭である。また、日本人もほとんど知らない『萌の朱雀』という、地味だけど印象的な映画を撮った若い日本人の女性監督が、数年前に「新人監督賞」をもらっている。

 これは半世紀以上も前の話だが、国際映画祭において初めて、欧米以外の国でも映画がつくられている(単刀直入に言えば、“へぇ〜有色人種でも映画がつくれるんだぁ!〈白人談〉)ということを、世界の映画人達に知らしめた映画、あの黒澤の『羅生門』が最高賞(金獅子賞)を獲ったのが、ベネチア映画祭である。インドのサタジット・レイ監督等の存在が欧米に知られるようになったのも、この授賞の功績である。北野武が『HANA-BI』で金獅子賞、『座頭市』が銀獅子賞を受賞したのもこのベネチアである。

 宮崎駿の『千と千尋』がオスカーを獲ったことは有名だが、ワールドワイドで見るとベルリン映画祭での受賞の方が意味が大きい。ベルリンでは過去に今井正の『武士道残酷物語』がグランプリ、左幸子と田中絹代が主演女優賞をもらっている。(相当古い話だが) ちなみに『千と千尋の神隠し』が獲得したこの映画祭の最高賞を「金熊賞」という。何で熊とか獅子なのか? 多分何かの象徴なんだろうが、その辺りはアタシもよく分かっていない。

 ところで、こういったメデタイ話を聞く度に思うのが、情っさけない日本人の国際感覚の欠如である。この話をするためには、50年前のベネチアまで戻らなければならない。言うまでもなく、黒澤の『羅生門』は世界映画史に残る名作であるのだが、原作が芥川龍之介の「藪の中」だけに、超芸術的な分、ほとんど娯楽映画とは言いがたい。
 
 実はこの『羅生門』には、スゴイ裏話がある。この映画を製作した映画会社の社長は『羅生門』を見て「こんなワケの分からん(儲からん)映画をつくりやがって〜!!」と烈火のごとき怒り、『羅生門』に携わった制作スタッフのほとんどを左遷(確かプロデュサーは北海道かどっかに飛ばされた)の憂き目に合わせたのである。

 ところが、暫くして『羅生門』がベネチアでグランプリを獲ったというニュースが入ってきた。そこでこの社長が一言、「ベネチアって何や?」‥しかし時既に遅し、黒澤映画の大方の版権はRKOという映画会社に二束三文で売っちまった後‥それで暫くの間、日本では黒澤作品をビデオで観ることが出来なかったのである。このオソマツを1万年光年通り越した話は、ウソみたいなホントの話なのである。

 今回の話だって例に漏れず。受賞以来、この少年は当然ながらマスコミでヒッパリダコ。彼が脇役で出演していたあるTVドラマは、彼の収録分は既に終えていたのだが、彼の出番を増やすように脚本をわざわざ書き直して視聴率を稼いでいる。「これで彼をもっと見られてハッピ〜」などとマスコミは宣伝しているが、やはり大衆はどこの国でもアサハカである。

 「浮世絵」などにはとんと興味も関心も示さない日本人が、ゴッホが浮世絵に感化されていたと聞いた途端、急に感慨深げになる。桂離宮にカブキにサムライ、世界に通用する日本のスグレモノは、何故か日本人よりも先に欧米人が発見する。新渡戸稲造、賀川豊彦、森有正も然り。ウチには多くの青年クリスチャンリ−ダー達が集っているが、賀川豊彦を知っている者は残念ながら一人もいない。

 「だからダメなのよ!」と言うことではないが、日本はいつもお隣りの韓国と比較され、ダメだダメだと言われっ放しで、卑屈になっている。しかし、日本にはバークレーの注解書なんかに普通〜に登場する筋金入りのキリスト者が存在するのだということを、日本のクリスチャンは知らなさ過ぎる!! ともかく、こんな話は日本にはゴマンとある。今回の子役の彼にしても、今回の受賞がなければ、そのまま一脇役で終わっていた可能性の方が高かったであろう。

 〔宮崎駿の『千と千尋の神隠し』は、全霊を込めた作品のクライマックスだ。それは日本の安っぽいアニメからは何マイルも離れたものだし、ディズニーの甘ったるい作品からは何光年も離れており、ピクセル・コンピュータのポストモダンな賢さとは何の関係もない。宮崎のスタイルは彼独特のもので、それが故に彼にグランプリが与えられたのだ。それは、Aクラスの映画祭としては、1973年のカンヌでトポルの「惑星野蛮人」が受賞して以来、アニメとしては最初のものだ!!〕

 これは『千と千尋』のグランプリ受賞に際し、現地の新聞が文芸欄で取り上げた記事からの抜粋である。このような簡潔明瞭、公正且つ歯に衣を着せない評論を、アタシは日本のマスコミで聞いたことがない。確かベネチアだったと思うが、ある作品の受賞に関し、経済的画策があったのではないかとの批判に、そこの選考委員会が「フン、俺たちゃそんな甘くないワイ!」と一蹴していた。残念ながらこういった気概を日本のマスコミから見出すことは無理である。

 日本にも星の数ほど映画祭があるが、生前黒澤さんが日本アカデミー賞に対して、「あんなことやっとるから何時までたっても日本映画は改善されんのぢゃ!!」と怒りまくっていたが、おそらくコネとカネでまみれた日本独特な金権映画賞なのであろう。しかし、あれで賞を獲ったからと言って、見に行くアホなんか‥いるんだよ、日本には。しかし、日本のキリスト者は数は少ないが、全体の質(?)としては、決して低くはないというのが、アタシの希望的観測。とにかく、視線は絶えず高いところに持っていきたいものである。
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