クローン人間の陰謀

 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 DVD再発が待たれる不巧のSFカルトムービー、『ブレードランナー』の原作である。ハリソン・フォード扮するブレードランナーは、レプリカントと呼ばれるアンドロイド専門のヒットマン。レプリカントは体内に組み込まれた生命制御装置により、一定期間が過ぎれば電池が切れたオモチャのように止まってしまう。レプリカント達は何とか生き延びようと煩悶苦悩し、自分達を造った人間に復讐しようとする。

 レプリカントは涙も流せば、恋もする。特殊な判別装置がないと、人間と区別できないほど人間なのである。そして最後にハリフォン・フォードは美人のレプリカントと恋に落ちるのであるが、それから20年、人間はもう手の混んだアンドロイドなど造る必要はなくなった。人のDNAを抽出して培養すれば、超人的パワーはないにしても、取り合えず人造人間が出来あがる(?)からだ。

 日本とアメリカは建前上クローン人間の製造を禁止している。しかしアメリカにはクローンエイド社という相当アヤシイ名の会社が存在し、そこでつくられたクローン胚で妊娠している韓国人女性(こういう時は必ず白人ではない)が実際にいるらしい。こんな話がマスコミに伝えられているくらいだから、我々一般庶民の40年先を行っていると言われる軍事技術から察すると、クローン人間も極秘の内に相当な段階まで実験済みなのであろう。

 先だって東大で著名なジャーナリスト達を招いての特別ゼミがあった。テーマは「生命倫理」。この講義の中で特に論議されたのは「クローン人間」についてであった。

 「クローン人間は決して生まれるべきではない。だが、近未来には様々なタイプのロボットやアンドロイドが出現し、クローン人間も普通の人間と同じように市民権を得て生活が出来るようになるかもしれない。もしそうなったら、私達はその存在を差別することなく、社会の中で人間として受け入れるべきである!」という意見に対し、 「だったら、クローン人間も普通の人間も同じじゃないですか?」と答えたある学生の反応に、講義をしていたセンセイ達がたじろいだ・・。

 てな話が世間で文化人とか評されている人々と、たとえアホでも日本では特別なステイタスを有する東大生の間で真面目に話し合われていたワケだが、実際このような論議は愚の骨頂以外の何ものでもない。

 「売春はしてはいけない。だが、社会には様々なタイプの風俗が存在し、事実、少なからず中高生達は堂々と自分の身体を売っている。であれば、私達は売春を差別することなく、社会の中で受け入れるべきである!!」と言っているのと同じである。

 その学生は「何故、クローン人間が誕生してはいけないのか、その理由は何なのだ?」と抗議したと言うが、はやり東大生はアホが多い。 大体、この人口爆発が深刻な問題となっている時に何でわざわざ膨大な時間とお金を使ってクローン人間を造らなあかんの? このゼミにおける諸々の発言も、子供が出来ないからクローンをつくって自分達の子供にしたいという発想も、正直アタシには彼等が何を言っているのかサッパリ分らない。

 「人間一人を恣意的に生みだし、そこに魂を込めるような精神性を、私はまだ獲得していない。その方法もわからない。物理的に命を複写したとしても、そこに魂を込める思想を持ち得えていないのだ。」このゼミに参加していた田口ランディ女史の意見である。アタシは彼女を物書きとして結構一目を置いていたのだが、どうやらそれは買い被りであったようだ。「魂を込める思想」とはいったい何なのか? 彼女は人が人に魂を吹き込め、蘇生させることが出来るとでも思っているのか? だとしたらそれはあまりに稚拙で傲慢な考え方である。

 あまりまどろっこしい事を言っていても始まらないので先に結論を言う。人間は身体と心(魂)と霊の三重構造で、その中心にあるのが「霊」である。これは聖書が言うまでもなく、既に古代ギリシア人が到達していた事実である。ここで霊と魂の違いを詳しく説明する紙面(画面)はないが、心(魂)は知性、感情、意志を司る人間が生きる上で必要なコンピューターのようなものであり、取り繕う事が出来ないその人の良心や品性といったものが霊である。その霊こそ人間の主体なのである。

 ところが多くの人は単に目に見えないとか、証明出来ないからという理由で、この「霊」について真剣に考えようとしない。彼等は肉体と大脳による思考が全てだと考えており、特に世間で知識人と評される人々にその傾向がある。だが、科学で証明可能なもの以外信じないと言う人は、自分の存在を科学で証明出来るとでも思っているのだろうか? 現代の最先端技術と云われる遺伝子工学も、要は既に自然界にあるものをただ切ったり貼ったりしているだけで、細胞どころか、一粒の土くれさえ人間にはつくれやしない。

 アメリカと日本は遺伝子組替え野菜をバンバン市場で売っている。それは未だ危険性が立証されていないという理由による。一方EUにおいて遺伝子組替え野菜は生産販売共に禁じられている。その理由は未だ安全性が立証されていないからという理由である。あなたはどちらの国の指導者が信頼出来ると思うか?

 いずれにせよ、同じ顔、同じ肉体なら同じ人間だと思うような人々に、神への冒涜だとか、人間の良心といったものについて考えろと言っても土台無理な話であろう。第一、自分のクローンを気味が悪いと思わない人間がいるということ自体、アタシには気味が悪い。霊が抜けたような人間は、クローン人間と大差はない。それが彼等の仲間を増やすための陰謀と考えれば何となく辻褄は合うのだが… 
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